
今回ゲストでお越しいただいたのは、一般社団法人 日本グルテンフリーアドバイザー協会 代表理事の中村由美子さん。サラリーマンとして働いていた20代に体調を崩した経験から、食の世界へ飛び込み、マクロビオティックを経てたどり着いたのが「グルテンフリー」でした。10年にわたり日本でのグルテンフリーの普及に取り組んできた中村さんに、美容と健康、無理のない食との向き合い方について伺いました。
体調を崩した会社員時代から「グルテンフリー」にたどり着くまで
田中:中村さんが立ち上げられた日本グルテンフリーアドバイザー協会は、2016年設立で今年がちょうど10周年なんですよね。改めて、協会ではどんな活動をされているのか教えていただけますか?

中村由美子さん(以下・敬称略):「グルテンフリーアドバイザー」という資格を持つ方を世の中に増やしていきたい、という思いがきっかけで立ち上げました。最初は資格ホルダーを増やすことをメインにしていたのですが、続けているうちにどんどん広がっていって。企業さまから商品開発に関わってほしいというお声をいただいたり、グルテンフリーのコンサルをご依頼いただいたり。一般の消費者向けにも、レッスンでレシピをお伝えするだけでなく、作ったものを実際に売ってほしいという声まで出てきて。気づけばグルテンフリーに関することを幅広くやらせていただくようになりました。
田中:もともとは新卒で大手企業に入社されたんですよね。
中村:そうなんです。最終的には体を壊して退職することになったのですが、当時は労働基準法の改正前で、月100時間残業という時も。そこから飲みに行く、みたいな働き方をしていたので、これは食事から変えないとダメだ、と思ったのがすべての始まりでした。
田中:食の道に進まれた最初は、マクロビオティックだったとか。
中村:はい、最初はマクロビオティックでした。玄米菜食をベースに、肉・魚・動物性のものを取らない食事法ですね。恵比寿にあった学校に2年ほど通いました。当時は体調が悪くなったり病気をしたりするとマクロビをやるというのが流行していて、マドンナさんやトム・クルーズさんも実践していることで有名な食事法です。
田中:実践された後、体調は改善されたのですか?

中村:正直、私には合わなかったんです。動物性のものを取らないと、自分のエネルギーがうまく回らない感覚があって。そこからビーガン、ベジタリアン、酵素食、ローフードと、いろいろ試しました。一通りかじってみて、最終的に一番自分に合っていると感じたのがグルテンフリーだったんです。
田中:いろいろ実践された中で、どうしてグルテンフリーが一番合っていたんでしょうか。
中村:実践のしやすさが圧倒的に違いました。他の食事法は『これも食べちゃダメ、あれもダメ』と禁止事項が多かったんですが、グルテンフリーは“小麦を控えましょう”というシンプルなもの。私にとっては全然苦ではなくて、むしろ自分で作っていく工程が楽しくなっちゃったんです。世の中にあふれているパンや小麦のスイーツを、小麦を使わずに同じような食感や美味しさに仕上げるには何と何を組み合わせればいいのか。研究するうちに、すっかりハマってしまって。
田中:途中で挫折してしまった人の話もよく聞きますが、ストレスにならないかどうかは大きなポイントですね。
中村:そう思います。マクロビをやっていた頃の私はまさにそれで、ストレスのあまり、夜中に家族が寝静まったあと、一人で全粒粉と豆乳でクッキーを焼いて、ガッと食べてしまう(笑)。これはいけないなと思いましたね。我慢が大きい食事法は、長く続かないんです。
10年で変わったグルテンフリーの景色——日本とアメリカの差
田中:協会を立ち上げられた当初の日本では、グルテンフリーという言葉自体がほとんど知られていなかったのではないですか?
中村:もう全然でした(笑)。せいぜい米粉という言葉を聞いたことがある人がいるかな、というくらい。米粉マイスター協会さんはあったのですが、お米の良さを伝えるという趣旨で、グルテンフリーとはまた少し違うものでした。だから、これはやはりアメリカで学ぶしかないと思って、向こうの友人を頼ってちょくちょく現地に行っては、単発の料理教室に参加したり、英語のレシピ本をたくさん買ってきたりしていました。
田中:当時のアメリカでは、もう一般化していたんですか?
中村:アメリカでは当時からグルテンフリーが一般化していました。すでにレシピ本も多々ありましたし、レストランやカフェに行ってもグルテンフリーが選べる。昨今のアメリカではもうトレンドではなく『ある』のが普通で、逆に本屋からグルテンフリーのレシピ本が少なくなるくらい当たり前です。ちなみに今のトレンドは地中海料理なんだそうです。

田中:先日お話を伺った。美容外科医の先生もおっしゃっていました。
中村:食のトレンドって、欧米から5、6年遅れて日本に入ってくるんですよ。ファッションやメイクは2、3年と言われますが、食はもう少しタイムラグがある。なので3年後くらいには、日本でも地中海料理が一般化しているかもしれませんね。
田中:アメリカでグルテンフリーが広がった背景は、健康意識の高さでしょうか。
中村:健康と美容、両方ですね。また、保険制度が日本とは異なるので風邪一つ引いても結構な医療費がかかると聞きます。なので日常的に自分で食事やサプリメントで体を整えておかないといけないという意識がすごく高いんです。日本では公的な医療保険制度があり、ある意味で守られているからこそ、食で予防するという発想が広がりにくかったのかもしれません。
田中:日本で言うと、グルテンが原因かどうかを医学的に診断するのも難しいと聞きますが。
中村:そうなんですよね。日本でグルテンに関する症状で正式に診断されるのはセリアック病だけなのですが、そもそもセリアック病かもしれないと疑うお医者さんが少ないという話も聞きます。検査自体のハードルもあって、本当はグルテンに反応している人がもっといるんじゃないかというのは私もずっと感じています。
田中:最近は若い方の慢性的な炎症体質も注目されていますし、お腹の張りや肌荒れの背景に、自覚されていないグルテン過敏が隠れている可能性は十分ありそうですね。
中村:はい。日本ではまだ、グルテン関連の症状や病気自体が新しい領域なんだと思います。これからもう少し研究や認知が進んでいくといいですよね。
お腹・お肌・スタミナ——実践者から届く声
田中:実際にグルテンフリーを始められた方からは、どんな変化の声が多いですか?
中村:圧倒的に多いのは、「お腹の調子が良くなった」という声です。そこからさらに「風邪を引きづらくなった」「肌荒れがなくなった」とおっしゃる方も多くて。意外なところでは、「スタミナがついた」「疲れにくくなった」という声もけっこういただきます。お腹の調子が整うことで、ほかのいろいろな部分が連動して整っていくのかもしれませんね。

田中:グルテンフリーを意識するとおのずと不調を引き起こすものを口にしないということもありますよね。
中村:その通りだと思います。例えばコンビニで袋入りのパンを買うと、そこには小麦以外にもトランス脂肪酸や添加物、白いお砂糖がいっぱい入っている。グルテンフリーを実践すると、そうしたものを“まとめて”遠ざけることになるので、結果として体調が良くなるということは私も感じています。
田中:腸の話で言うと、お腹の張りとむくみを混同されている方もけっこう多いんですよね。
中村:そうですね。腸の細胞に影響が出ると、腸が正常に機能しなくなって、排出も栄養素の取り込みもうまくいかなくなる。結果的にお肌は荒れるし、水分の排出も滞ってむくみにつながる。腸はあらゆる不調の起点になり得る場所なんです。
田中:人間って、腸に不調が出るとさまざまな体調不良が起こりえますからね。
中村:本当にそうなんですよね。だからこそ、毎日の食事で腸を整えていくことが、美容にも健康にも一番の近道なんじゃないかなと考えています。
「ガチガチ」ではなく「プチ」でいい。ライトに楽しむという考え方
田中:中村さんは「プチ・グルテンフリー」という言葉を使っていらっしゃいますよね。
中村:そうなんです。私自身も小麦を完全に断っているわけではなく、普通に食べますし、悪者にするつもりも一切ありません。ガチガチに『ゼロか100か』でやろうとすると、ストレスでかえって続かない。おしゃれ感覚で、『私やってるんだ』『〇〇さんもやってるんだ』というライトな雰囲気で広まっていけばいいなと思っています。例えば花粉症がひどい時期だけグルテンフリーにしてみる、出張でどうしても外食が続く時だけサプリでグルテン対策をする、それで全然いいと思うんです。相対的に人生の中の小麦摂取量が減るだけで、体は変わってきますから。
田中:日本人は真面目な方が多くて、つい『ゼロにしないと意味がない』と思いがちですよね。
中村:そう、すごく真面目なんですよね。でも、そんなにストレスになってしまうと、本来健康のためにやっているはずのことが本末転倒になってしまう。気軽に取り入れて、続けられる形にすることが一番大切です。

田中:どうしても食べたい時は、小麦の選び方も大事だとか。
中村:そうですね。同じ小麦でも、輸入の遺伝子組み換え小麦と、国産の地粉ではかなり性質が違います。アレルギーをお持ちの方にお勧めはできませんが、美容や健康のためにライトな感覚でやられる方であれば、地粉を選ぶというのも一つの選択肢としてあります。小麦って美味しいものですし、上手に付き合っていくのが現実的ですよね。
田中:最近では、青山にあるグルテンフリードーナツのお店が大人気で、グルテンフリーという言葉が一気に認知されたなと感じます。
中村:あのお店ができてから、グルテンフリーがおしゃれな選択肢として認識されるようになりましたよね。グルテンフリーのことを伝えていると「本当に美味しいの?」と聞かれることが良くあります。正直、美味しくないものも世の中にはあるかもしれませんが…(笑)。グルテンフリーのパンやスイーツを小麦と遜色なく作ることはいくらでもできるんです。本当に美味しいグルテンフリーを知ってほしいし、その作るスキルも美味しい商品自体も、もっと流通していくといいなと思っています。
グルテンフリーをこれから始める人へ
田中:最後に、これからグルテンフリーをライトに始めてみたいという方に、何かアドバイスをいただけますか?
中村:繰り返しになるかもしれませんが、いきなり完璧を目指さなくていい、ということですね。まずは家での主食をたまに米粉のものに置き換えてみる、外食で蕎麦や寿司を選んでみる、それくらいのところから始めてみてください。日本食はもともとグルテンフリーと相性が良いので、定食、お寿司、お蕎麦。このあたりを意識するだけでも、外食でかなり楽になりますよ。
田中:それは始めやすいですね。
中村:そして、美容の効果を期待される方には、まず2週間ほど続けてみてほしいですね。お腹の張りやお肌の様子に変化が出やすいタイミングです。続けてみて自分に合っていると感じたら、そこから少しずつ生活に組み込んでいけばいい。合わない、効果が感じられないという方は、無理に続ける必要もないと思います。それぞれの体に合った形で、楽しみながら食を整えていくのが一番です。
田中:『ガマンの食事法』ではなく『楽しみながら整える食事法』として、これからもっと広がっていきそうですね。今日は貴重なお話をありがとうございました。
中村:こちらこそありがとうございました。グルテンフリーが、皆さんの日々の健康と美容、そして人生の楽しみのひとつになっていけば嬉しいです。

Profile/
中村由美子(なかむら ゆみこ)
一般社団法人 日本グルテンフリーアドバイザー協会 代表理事。料理研究家/ヨガインストラクター。電話会社社員から食の道へ転身し、マクロビオティック、ヨガを経てグルテンフリーに出会う。2016年に協会を設立し、「人生をますます楽しむためのグルテンフリー」をテーマに、資格認定講座、企業のレシピ開発・コンサルティング、農家とのコラボ商品開発などを手がける。著書に『「週末グルテンフリー」でスッキリ快便、ぐっすり快眠!』(学研プラス)。
一般社団法人 日本グルテンフリーアドバイザー協会
https://www.glutenfreeadvisor.jp/
田中翔大(たなか しょうた)
株式会社エイトウィル CEO。大学卒業後、野村證券株式会社に入社。2017年、株式会社HRBrainの創業メンバーとして参画し、2020年に取締役に就任。2024年、自身の保有株式を投資ファンドへ譲渡し退任。2025年、株式会社エイトウィル創業し、「グルテン分解乳酸菌」の国内総販売元として、従来の「常識」にとらわれず、本質的な価値を提供し続けることを追求している。
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